2009年12月02日

強制ダイエットメニュー

友人と街を歩いていて、そろそろ腹が減ったな、という話になった。

適当に何でもいいや、と一番近い食いもん屋をさがしたんだが、夕飯時でどこも一杯であった。
もうこうなってきたら、空いてればどこでもいい。
そういう話になっておった。

阪急岡本駅の前の坂道をとことこ降りていくと、
某ビル2階の窓に「喫茶・軽食 定食あります」の文字があった。
店内がガラス越しに見えている。

「空いてるみたいだ」
「よし。あそこに行こう」

階段を昇り、その店の前に二人で立つ。
確かにガラスのドアに「営業中」の札がかかっているが、店内は妙に暗い。
そして何よりも、店全体が抗い難い負のオーラを放っている。

「本当に……これでいいんだよな?」
「ま、まあ、いいんじゃない?」

と言いつつ、どちらも先に足を踏み出そうとしない。
するとガラス越しに我々に気付いた店のおばちゃんが、私たちにニッコリ頭を下げた。
開いている飲食店に人間が居るのは当たり前なのだが、その時我々は、正直ホッとした。

入ってみると、他の客はいない。他の店はどこも一杯だったのに………。
客は我々だけなのだから、席は座り放題である。
窓際の一番豪華なソファの席に座ることにした。
座り心地は悪くない。おばちゃんが水とおしぼりを持ってやって来た。

「御注文は」
おばちゃんはさっき、にっこり笑って頭を下げたくせにやる気がなさそうだった。
そう言われて、テーブルに置いてあったポップ型のメニューを見る。

コーヒー(アイス、ホット)
紅茶  (ミルク、レモン)※アイス、ホット選べます
オレンジジュース
カレーライス
親子丼

「これだけ?」

「これだけ」


………これだけ………か。

メニューを裏返してみるが、何もない。シンプルなメニューだ。
窓に貼ってあった「定食あります」はどうなったのだろうか。

「じゃあ、カレー」
「親子丼」
「はい、カレーに親子丼」

おばちゃんはカウンターの方へと帰って行った。
店内を見渡すと、どうやらあまり掃除をしていないようである。
スイッチの消えたテレビの上など、ホコリで真っ白になっている。

振り返ると、背後に大きめの、相当旧式のカラオケマシンが置いてあった。
衛星とかレーザーとかいったものではない、懐かしいカセットテープを使うタイプだ。
曲名を見ると「ラバウル小唄」だの「買い物ブギ」だの、『映像の世紀』でしか見たことないようなタイトルしかない。
ここは戦前でストップしてるのか………? と思った。

すると、おばちゃんが手ぶらでこっちへやって来た。
「お兄ちゃんら、ごめん。カレーできるほど御飯無かったわ。」
「え?」
私たちは顔を見合わせた。
「じゃあ、親子丼で」
「ごめんなー」

カレーができないと言うから親子丼と言ってしまったが、
カレーができない量であれば、それはもう親子丼もできないと思うのだが………。

カウンターを見ると、おばちゃんが親子丼の用意をしているようである。
しかしその動作は、カウンターから上しか見えないにも関わらず、ものすごくぎこちないのが解る。
鍋に鶏肉とネギを切り、割り下を煮始めているようだった。
閑散とした店内から、人通りのある外を黙って眺めていると、カウンターからいやなつぶやきが聞こえてくる。

「アチ! あちゃあちゃ、あちゃあちゃ」
「あっ、しもた!」
「ああ、どないしよう」

お金を取って食事を出す者としては、どうにもあるまじきセリフを連発している。

「あ、あのー………」
「ゴメンな! もうすぐできるから!」
「いや、そうじゃなくて………」

その時、店の電話がジリリリリリン!と鳴った。
アナログ全開のダイヤル式である。ここは戦前の店なのだから当然である。

「え? あ? ど、どうしよ」
おばちゃんが大慌てになっていた。
我々は善人であるから、困った人を見るとほうっておけずに立ち上がった。

「おばちゃん、火を見とこうか」
「え? そう? ごめんなあ」

私たちはカウンターの中に入った。
煮られている材料を見ると、肉もネギも異様にデカい。これは水炊きかと思うほどであった。
まさかとは思うが、親子丼を作ったことがないのでは………。

電話は大したことのない内容だったようだ。すぐに終わった。

「ありがとうな、後はおばちゃんやるわ」
「あー、いや、その……。もうちょっと手伝うわ」
「えっ」
「別にええやろ」
「あ、そーお? ごめんなー」

おいおい! あっさり引き下がりすぎだろ!!

結局我々は、自分で注文し自分で作って自分で食べるという、
超セルフサービスな外食をしてしまった。

それも、御飯半人前というダイエットメニューで。



またこの店に来ることがあるだろうか………。
無いような気がした。


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posted by tk219 at 16:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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